TOP > トピックス > ブログ > お客様は神様?中小企業経営者のための令和7年改正ハラスメント対策:カスハラ防止と安心して働ける職場づくり

お客様は神様?中小企業経営者のための令和7年改正ハラスメント対策:カスハラ防止と安心して働ける職場づくり

皆様、こんにちは。いばらき法律事務所の弁護士の横山耕平です。

当ブログでは、折々の法律改正の話題など、みなさまへの情報提供ができればと思っております。

さて、冒頭、刺激的な表題がでてきましたが、お客様の「満足」がビジネスの基本です。一方、「満足」と「わがまま」とは違うものだ、「経営の神様」松下幸之助さんがご本の中でそうおっしゃっていたように記憶しています。

その線引きはどこにあるのか。

それは一概には言えないでしょう。

しかし、企業が気を付けるべき法律があります。

最近、公共交通機関などでカスタマーハラスメントを注意する張り紙があったりしますよね。この法律を意識したものかもしれません。それは、

労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法 ※1)

です。これに基づくハラスメント対策は、大企業だけでなく、令和4年(2022年)4月1日からは中小企業を含む全ての事業主に法的な義務として課されています(※2)。この義務は、少子高齢化が進む日本において、労働者が意欲と能力を発揮し「生きがいをもって働ける社会」を実現するため、企業の重要な責務とされました。

あなたの会社は、この対策を単なる「面倒なコスト」と捉えて対応を後回しにしていませんか? ハラスメントの放置は、有能な人材の流出、生産性の低下、そして何よりも企業の社会的信用を損なう致命的なリスクとなりえます。特に中小企業にとって風評リスクは大きな打撃になりかねません。

そして今、令和7年(2025年)成立の改正法により、企業のハラスメント防止義務はさらに強化されます。本ブログでは、この改正の核となるカスタマーハラスメント(カスハラ)対策を中心に、中小企業が今すぐ取り組むべき具体策と、社員の皆様が知っておくべき相談の権利について解説します。

1 令和7年(2025年)改正の意味:カスハラ防止措置義務の発生

労働施策総合推進法の最新の動向として、令和7年(2025年)に成立した改正法(令和7年法律第63号)では、職場におけるハラスメント対策のさらなる強化が図られています(※3)。

最大のポイントは、顧客や取引先から従業員への迷惑行為(いわゆるカスハラ ※4)についても、事業主に対し、その防止措置を講じる義務が新たに課された点です。これまでは、カスハラ対策は行政指導やガイドラインによる推奨に留まっていましたが、今後は法的な義務となります(※5)。

「自社の商品やサービスを提供しているのだから、顧客からのクレームはある程度受け入れるべきだ」と考えている経営者の方もいるかもしれません。しかし、業務上必要かつ相当な範囲を超えた悪質な要求や暴言は、従業員の心身の健康を害し、就業環境を著しく悪化させます。従業員を守ることは企業の義務であり、義務を怠れば、法的な責任を問われかねません。

今すぐ対応に着手すべき理由:

  • 法令遵守: 施行後は、カスハラ防止措置を講じない場合、従来のパワハラ防止義務と同様に、厚生労働大臣による指導・勧告、最終的には企業名公表のリスクが生じます。
  • 人材確保・定着: 働く人がカスハラから守られていると実感できなければ、離職率は高まります。特に人手不足が深刻な中小企業にとって、働きやすい環境づくりは優秀な人材を繋ぎとめるための最重要課題です。

カスハラ防止措置には、顧客対応ルールの明確化、毅然とした対応方針の周知、そして万が一被害を受けた従業員へのケア体制の整備などが含まれるでしょう。就業規則や社員ハンドブックに、カスハラに対する会社のスタンスと具体的な対応フローを明記し、周知徹底することが求められます。

2  中小企業が今、強化すべきハラスメント対策の4つの要点

カスハラ対策だけでなく、すでに義務化されている職場のパワハラ防止措置についても、中小企業は規模に応じた工夫をしながら、体制の整備を急ぐ必要があります。

(1) 方針の明確化と周知徹底

経営トップから「ハラスメントを許さない」という強いメッセージを発信することが最も重要です。パワハラ防止指針に沿い、ハラスメントの禁止事項や懲戒規定を就業規則等に明文化し、ポスターや社内メールを通じて、従業員に浸透させましょう。

(2) 相談窓口の設置と外部資源の活用

従業員が安心して相談できる窓口の設置は必須です。中小企業の場合、社内の人間関係が近密なため、「誰に相談すれば報復されないか不安」という従業員の懸念が生じやすい側面があります。

この課題を解決するため、社外の弁護士など、第三者機関に相談窓口業務を委託することが極めて有効です。私もいくつかの企業からそのような職務を承っていますが、社内に専門人員がいない、あるいは公正中立性を保ちにくい場合でも、外部専門家を活用することで、安心して利用できる窓口を提供できると思っています。

(3) 初動対応計画の確立と不利益取扱いの禁止

ハラスメントが発生した際、「事が起きてから考える」ようでは対応が遅れます。中小企業こそ、事前に相談から事実調査、是正措置、再発防止までの対応マニュアル(フロー)を決めておくべきです。

また、相談者や調査協力者に対する報復的な不利益取扱い(解雇、降格、嫌がらせ等)は、法律によって明確に禁止されています。この禁止規定を管理職を含む全従業員に徹底し、「相談しても不利にならない」という安心感を醸成することが、相談窓口の実効性を高めます。

(4) 継続的な教育・研修

パワハラの定義(優越的な関係、業務範囲の逸脱、就業環境の侵害の3要素 ※6)や、カスハラを含む新たなハラスメントのリスクについて、定期的な研修を実施しましょう。特に管理職には、「熱心な指導」と「行き過ぎた叱責」の境界線(適正な業務指導とパワハラの違い)を具体的な事例を通じて理解させることが重要です。

3 働く方が知っておくべき権利と相談のロードマップ

従業員の皆様が、安心して働く環境を求めることは正当な権利です。もし、職場でハラスメント(パワハラ、セクハラ、カスハラ等)に直面した場合、決して一人で抱え込まず、以下のロードマップに沿って行動してください。

・証拠の確保と社内への報告

ハラスメントの事実を会社に認めさせるため、まず重要なのは証拠の確保です。いつ、どこで、誰に、どのような言動があったのか(5W1H)、日時、状況、発言内容などを詳細に記録しましょう。ボイスレコーダーの録音やメールの保存など、客観的な証拠は後の証明に役立ちます。

証拠を確保したら、会社の相談窓口や人事担当者に報告します。会社には、相談に応じ、迅速かつ適切に対応する法的責務があります。また、相談したことを理由に不利益な扱いを受けることは法律で禁じられていますので、安心して声を上げてください。

・社外の公的機関を活用する

会社に相談しても状況が改善しない、あるいは社内窓口が機能していないと感じる場合は、迷わず社外の公的機関や専門家を頼りましょう。

最も身近な選択肢は、都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」です。ここでは、労働問題全般について無料で相談でき、必要に応じて労働局長による会社への助言・指導や、紛争調整委員会によるあっせん(調停的な解決)を利用することができるとされています。これは裁判を経ることなく、第三者の立会いのもと会社側と話し合い、解決を図る非常に有効な手段です。

さらに、深刻な被害を受け、法的な解決(損害賠償請求など)を検討する場合は、弁護士にご相談ください。弁護士は、このような法律問題についての専門家です。

最後に

ハラスメント対策は、法令を遵守するための最低限の義務であると同時に、企業のリスク管理であり、企業価値を向上させるための重要な投資です。経営者と労働者が一体となって、ハラスメントのない健全な職場環境を築き、持続的な発展を目指しましょう。

【割注】

※1 労働施策総合推進法の正式名称:

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律。

 ※2 中小企業への義務化:

職場のパワハラ防止措置義務(相談窓口設置等)は、当初大企業で令和2年(2020年)6月1日に施行されましたが、中小企業には経過措置が設けられた後、令和4年(2022年)4月1日に全面適用されました。

※3 令和7年(2025年)改正法の施行時期:カスハラ防止措置義務化を含む改正法は、公布後1年6か月以内の施行が予定されています。

※4 カスタマーハラスメントは、「顧客等言動」として、次のように定義されています。

・職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(「顧客等」)の言動であること

・その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの

・それにより当該労働者の就業環境が害されるもの

※5 法違反に対する措置:

労働施策総合推進法には、違反に対する直接的な刑事罰規定はありません。ただし、ハラスメント防止措置を怠り、厚生労働大臣からの是正指導・勧告に従わない場合は、企業名が公表されるという行政措置が講じられます。この企業名公表は、企業の社会的信用を大きく損なうリスクがあります。

※6 パワハラの定義:

職場において行われる(1)優越的な関係を背景とした言動であって(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより(3)労働者の就業環境が害されるもの、の3要素をすべて満たす場合を指します。客観的に見て適正な業務上の指示・指導は該当しません。

お問い合わせ
Contact Us

お悩み・お困り事がございましたらまずはお気軽にご相談下さい

072-646-9099

平日9:30 〜 17:00 [土日祝 定休]